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生ピアノをスタジオで録音(レコーディング)|スタインウェイ D-274 [制作日記]

2015年11月22日、本当に長い道のりを経てこの日にたどり着きました。そして無事終了しました。

まずは素晴らしい演奏をしてくださったピアニストの鈴木先生、スタジオ、ピアノの手配からセッティング、レコーディングに至るまでのすべてを取り仕切ってくださり、最高の録音・ミックスをしてくださったレコーディングエンジニアの内川様に心よりお礼申し上げます。

そして心が折れそうになった私を最後まで支えてくれたMASA、本当にありがとう。

これまでの過程

生演奏をしていただいた先生とのやり取りはこれまで数回にわたって記事を書いてきました。

【この日までの道のり(制作日記)はこちら】
・第1回 - ピアノを弾けない初心者がピアノソロ曲の作曲に挑戦
・第2回 - 生演奏依頼のため楽譜を作成|そこでわかったピアノ曲を作曲するコツ
・第3回 - DTMでピアノ曲の参考音源を制作|弾けないことによる打ち込みの難しさと面倒さを痛感
・第4回 - 【ピアノ録り】本番前の最終リハーサルを終えて

生ピアノを録音する

ただ、今回は生演奏して終わりではなく、その演奏を録音します。生ピアノの録音を安心してお任せできる方なんてなかなかいません。その点、私は恵まれていました。

以前、別の記事で少し触れましたが、私がミックスを習っていたレコーディングエンジニアの方こそ内川さんなのです。

約5年ぶりのご連絡となりましたが、快くお引き受けくださり、最適なプランをご案内いただきました。

ピアノ録音の注意点

調律など、生のピアノ録音においてネックになることからはじまり、録音時の譜めくり、録音の組み立て方といったことまで丁寧にご説明いただきました。

譜めくりに関しては出来る限りしない方が良いとのアドバイスを受け、先生が譜読みできる大きさを確認しつつ、7枚だった楽譜を5枚にし、譜面台に立てられる長さの一枚にしました。(5枚をノリで張り付けました。)
加えて、長い楽譜がペラペラしないように、ダブルクリップで厚紙を後ろに付けました。

また、録音の組み立て方に関しては、一発録りが好ましいものの、ミスタッチがないとも限りませんので、複数テイク録って上手くいくものがなかった場合にどうするか、限られた時間の中で作品を仕上げる為の方法を教えていただきました。

私が不安に思っている内容に対してすべて明確な回答をいただき、録音に関しての不安はかなり解消されました。

いよいよ録音当日

さて、当日。スタジオの最寄り駅で先生、MASAと待ち合わせて、三人でスタジオまで歩きました。時間は17時半。今年は暖冬と言われ、前日まで暖かかったのですが、この日は打って変わって肌を刺すような寒さ。先生は体調を崩されてしまったようで、コンディション面でも心配が・・・。

10分ほど歩いてスタジオに到着すると、すでに内川さんがセッティングを開始されていました。久しぶりに内川さんにお会いできて嬉しい反面、ついに本番だと緊張が高まります。

使用するピアノは・・・

今回使用したピアノは「スタインウェイ D フルコンサートピアノ」。D型と呼ばれる「D-274」というモデルです。モデル名のとおり、奥行きは274cm。間近で見るフルコンは迫力がありました。ちなみに新品を購入するとなるとその価格(値段)は2,500万~3,000万円とのこと。
((((;゚Д゚))))

しかも、毎年(もしくは一定期間で)値段を上げているようでして、つまり、いつでも“今が買い時”状態だそうです(笑
スタインウェイ D-274
スタインウェイ D-274
さて、マイクも立てられ、先生の試奏とともにレベルの確認が完了し、いよいよレコーディング開始!

まずは一発録り

内川さんから

どう録りましょうか?

と聞かれ、予め頭の中でイメージしていた段取り通り、まずは一度通しての録音をお願いしました。

上述のとおり、一発録りでOKテイクが録れるのが一番好ましいのですが、この日は(先生の)体調が悪いことも影響してか、AからIまでセクションがあるうち、ほぼ1セクションに1回程度のミスタッチがあり、また、後半に進むにつれて演奏が少々粗くなってきました。

私の仕事・・・

さあ、どうするか。ここからが今日の私の仕事(役割)です。私は先生の集中力が長く続かないと判断し、一発録りはあきらめ、セクションごとに録音していくことを選択しました。

ところが、最初のAセクションで、どうしても同じところでミスタッチが起こってしまい、OKテイクを録ることがなかなかできません。

4~5回演奏していただいた後、ちょっと雰囲気が悪いなと思い、内川さんに相談。AセクションとBセクションの間には2拍の休符があり、曲の流れ的に繋がっている感じではない為、Bから始められないかと。内川さんも大丈夫ではないかと仰ってくださり、Bから開始することにしました。

ピンポイントで伝える

これが功を奏し、B以降の各セクションのOKテイクが次々と録れていきます。しかし、曲の中盤、A′とも位置づけられる箇所でつまずきます。Aとは異なる箇所でのミスタッチなのですが、私にはミスタッチに聞こえるものの、先生はその箇所を把握されていないようで、

どこの部分ですか?

との質問が。

「えーっと・・・」と私が上手く説明できないでいると内川さんが、

フレーズの一番頂点の部分です。わずかに隣の鍵盤に触れていて、それが○○さん(私のこと)は気になっているのだと思いますよ。

と。まさにその通りです。この指摘の後、一発でOKテイクが録れました。

これ、ものすごく重要なことなんですよね。当たり前ですが、演奏者は演奏に集中しています。ましてや、自分の曲、もしくは自分の演奏を録音する目的ではなく、依頼者が作曲した曲を依頼者の為に演奏しているわけで、多少ナーバスになっている部分もあると思います。

また、時間の制約もあり、コンサートなど人前で演奏する本番とは異なる、レコーディング独特の緊張感もあるのだと思います。だからこそ、依頼者(私)は抽象的ではなくピンポイントでの修正指示を出す必要があるわけです。

今回私は、内川さんだからこそ助けていただけましたが、もし、ご自身の楽曲を実演家の方に演奏・録音していただく場合には、私を反面教師として参考にしていただければと思います。

OKテイクを繋ぎ合わせる

その後、録音は順調に進み、曲の最後まで録った後、Aセクションに戻って終了。18時過ぎから録音を開始して、約50分くらいでしょうか。ここで、セクションごとに録ったOKテイク(複数テイク録ったものはその中から最善のもの)を内川さんがつなぎ合わせていく作業に入ります。

その間、先生、MASA、私でしばし談笑。そして、内川さんが編集してくださったデータが出来上がり私がヘッドホンでモニター。ちなみにサラッと書きましたが、内川さんの編集作業、とんでもない速さと精度で行なわれているのを横目で見て驚愕しました。

チェックの為に譜面と鉛筆を持ちプレイバックを聞くのですが、その前に、

僕の手が動かない(修正箇所が書き込まれない)ことを祈っててくださいね。

と先生に冗談っぽく言うと、先生は苦笑いをされていました。

一応は最後まで録り終えていることもあり、また先生もレコーディングに慣れてきたこともあってか、この時点ではこんなことが言えるくらい、リラックスした雰囲気になっていました。

さて、モニターの結果は・・・。二箇所、気になる点がありました。一つは再生PC側の一時的なノイズだったので問題無し。もう一つは後半で盛り上がる箇所のミスタッチ。

後者を内川さんに伝えたところ

やっぱり気になりましたかぁ。

と。

ここは、体調不良と今日の演奏で疲労困憊の先生に頭を下げ、もう1テイクいただくことに。

別テイクを繋ぎ合わせるときの注意点

余談ですが、このように演奏を繋いで録音を行なっていく場合、テンポ感の変化や演奏のたるみを防ぐため、演奏者の弾きやすい範囲で、実際に録音する箇所の1~2小節前から演奏を始めていただき、演奏の終わりもその1~2小節後まで弾いていただきます。

ところが、このとき私の方が気が緩んでしまいまして、終わりをどこまで弾いていただきたいかを先生に伝え忘れてしまった為、1回目の本来OKテイクだったものがNGに。(最後の部分がたるんでしまいました。)
もう一度お願いしてOKテイクが録れました。(これも反面教師としてご参考まで。)

その他、前半部分でちょっと気になったところがありましたので、ここも再度演奏をお願いしたのですが、内川さんが仰っていた通り、最後まで演奏した後、前半に戻っての演奏は、テンポ感やダイナミクス感が当初録った前後のテイクと異なってしまい、上手く繋がる演奏にはならなかった為、最初にOKを出したテイクを採用。

録音完了

これで録音が無事完了しました! 終了時間は19時半頃だったと思います。18時~20時でスタジオを抑えていただいていたため、撤収の時間を考えても15分くらい余裕をもっての終了となりました。

先生と今回使用した譜面を持って記念撮影。
記念撮影

ちなみにこの譜面をスタインウェイ D-274の譜面台に置くとこんな感じです。
譜面

内川さんも一緒に。
記念撮影

ミックス & マスタリング

翌日の昼過ぎ、内川さんからミックス+マスタリングを行なっていただいたデータをお送りいただきました。聴いてみた最初の感想は、、、「なんだこのクオリティの高さは!」でした。音色、音質、各セクションのつなぎ、すべてが完璧な状態でした。

目指した音色は・・・

レコーディング前にどのような音色にしたいかを尋ねられていまして、モード(モーダルミュージック:旋法音楽)をベースに作曲していたので、何となく坂本龍一氏がイメージに近いとお伝えしていました。

私が所持している坂本龍一氏のピアノソロアルバム『Coda』の1曲目、かの有名な『Merry Christmas Mr.Lawrence』と聴き比べたところ音色、空気感がそっくり。

『Coda』は1983年の録音なのですが、それを技術の進歩に合わせて、また、この楽曲に合わせて最適な状態に調整いただいた感じです。内川さんのミックスのすごさを改めて実感しました。
(『Coda』はオノセイゲン氏がマスタリングを担当されたリマスター盤も2013年に発売されていますが、私が所有しているCDはオリジナル盤です。)

また、録音当日はOKテイクを録ることに意識の大半が向いていたため、先生の演奏を一リスナーとして聴くことが出来なかったのですが、このとき初めて先生の演奏をちゃんと向き合って聴くことが出来、「こんなに素晴らしい演奏をしてくださっていたんだ」と改めて思いました。

モニターの失敗

ただ、一点だけ気になる箇所がありました。実は録音当日、私はモニター用のヘッドホンを持参するのを忘れてしまいまして、内川さんがご自身で使用されるヘッドホンを貸してくださったのですが、録音時はヘッドホンを付けず生の音を聴いてOKかNGを判断していました。

上述の通り、最終的には一度ヘッドホンでモニターしているのですが、この気になった部分というのが、最後にリテイクした場所だったのです。そして、この場所は一度もヘッドホンでモニターしていませんでした。大失敗をやらかしました。

内川さんにかなり無理なお願いをしまして、細かくテイクを分ける調整を行なっていただくことになってしまったのですが、ここでも完璧な編集をしてくださり、事なきを得ました。これも私を反面教師としてご参考まで。

皆様の協力のおかげで・・・

そして、その日のうちにマスターデータを納品いただきました。マスターデータを聴いて、不覚にも涙を流してしまいました。
(ToT)

これまでの制作日記をご覧になっていただいた方はお分かりかと思いますが、私自身、ものすごく苦労してここまできました。

実演家の方(先生)もエンジニアの方(内川さん)もその道のプロであり、信頼している反面、当たり前のこととは理解はしていても私との音楽的能力の乖離により、自分だけが取り残されていて、ものすごく孤独と言いますか、なんだか一人で戦っているような気持ちに陥っていたんですよね。

でも録音当日、そして翌日と、他の誰の為でもなく、“私が作曲した曲の為”=“私の為”に一生懸命演奏・録音・ミックスをしてくださっている。

加えて、そんなナーバスになっている私に気を遣い、適度な距離を置いて接してくれたMASA。先生、内川さんとのやり取りは私一人で行なっていても、間違いなく強力な後ろ盾でした。

そんなことを思っていたら、曲が良いとかそういうことではなく、いろいろな人の協力があって作品が出来上がったことに感情が高ぶりました。逆に、惜しむらくはもっと良い曲が書けていたらなぁということですね(苦笑

完成した音源

そんなこんなで完成した音源はこちら。曲名は『Recollection』です。

【2016/2/2 追記】動画を公開しました。

参考音源を制作したときは、このままでもそこそこいけるのではないかと思っていたのですが、完全に買い被りでした。コンディションの良い生楽器を使用し、プロの実演家が演奏して、プロがエンジニアが録音・ミックスするとこんなにも素晴らしい作品になります。本当に貴重な体験をさせていただきました。

振り返り・・・

さて、約半年間にわたって行なってきたこのプロジェクト。実際の作業としては凹型でして、最初と最後の一ヶ月間がバタバタしました。

基礎力(ソルフェージュ)の大切さを痛感

今回の経験を通して痛感したことは自分の音楽能力の低さです。その中でも二つに大別されるのですが、まずは音楽に関する基礎力の低さ。HIRNESでの楽曲制作は趣味でやっていることですので、締切などはありません。今回の曲にしても、7月から制作を開始し、期間だけ見れば半年かけて仕上げています。

ただ、上述のとおり、実際の作業期間は二ヶ月くらいです。特に、先生に演奏を依頼した9月初旬から10月末までの二ヶ月間はほとんど何もしていません。

当たり前のことではあるのですが、演奏(実演)を“仕事”とされている先生は、1曲を仕上げるのに6ヶ月もかけるなんてことはないです。コンサートなどの演奏の場合にはかなり前から準備をされると思いますが、それはそのコンサート自体をどうプランニングするか(他の演奏者との調整を含む)といったことも含まれるからだと思います。もしくはとんでもなく難しい曲であるとか・・・。

制作日記の3回目で書きましたが、私が最初に演奏を聴いたのは11月1日。ここで、「こうしよう」、「ああしよう」と変更することになるのですが、一日二日でアレンジし直して、さらに楽譜を書き直して、、、って、私の音楽能力ではかなりの無理がありました。

先生にとっては何でもないような作業が、私にとってはとてつもなくハードルが高いものであり、音楽に関する基礎力に乖離があることを改めて痛感しました。

もし11月3日の祝日がなかったら、、、と考えるとゾッとします。
((((;゚Д゚))))

作曲は難しい・・・

もう一つは、単純に作曲する能力の低さ。制作日記の1回目で書いた通り、私は作曲経験がほとんどありません。そんなこともあって、自分で曲を作る場合、なんか物足りないなぁと感じたり、曲作り自体に行き詰ると、むやみにパート数を増やし音を重ねて何とかしようとする悪い癖があります。

これはMASAとのやり取りの中でもあることなのですが、その点、MASAは音の間に空間を作ったり、わびさび的な構成を作るのがものすごくうまいんですよね。私もこうした能力を身に付けたいなぁと思いました。

加えて、制作日記の2回目に書いた通り、ピアノ曲を作曲するには、もっともっといろいろなピアノ曲を聴いたり演奏したりして、引き出しを増やさなければいけないと痛感しました。

そんなこともあって、先生からは

最終的には良い曲になったじゃない。曲を書き続けたほうが良いよ。次作も期待しています。

と言っていただき、MASAからも

この方向性の曲作りを今後も続けていこう。

と言ってもらいましたが、ちょっとした燃え尽き症候群っぽくなっている為、しばらくの間、充電期間に入りたいと思います。
(^^;

久しぶりにミックスの先生でもある内川さんにお会いしたこともあり、HIRNES結成時の役割分担のとおり、ミックス、マスタリングに関して勉強と経験を重ね、MASAが作るトラックを少しでもいい音で配信できるよう頑張ります♪

いつかは自分で演奏できるように・・・

最後に、この『Recollection』、もともとピアノソロ曲として制作を始めたわけではありませんので、機会があればMASAと私、それぞれアレンジバージョンを作ろうと思っています。

いつ公開できるかはわかりませんが、その時に、「あぁ、よく頑張ってピアノソロ曲として作ったなぁ」とこの日のことを思い返せたらいいなぁと思っています。

また、いつの日か、このピアノソロを自分で演奏できるようになることを目標に、今後もピアノの練習に励みたいと思います。

録音とは関係ないこぼれ話

録音当日、少し時間が余ったので貴重な体験として、スタインウェイ D-274を弾かせていただきました。弾いてみた感じではレッスンで使用しているピアノ「ヤマハ グランドピアノ Cシリーズ(確かC5だったと思います)」より、鍵盤が重い感じがしました。ただ、弾き難いかと言えば決してそのようなことはありませんでした。(鍵盤の戻りが速いのでしょうか?)

そして内川さんから

ダンパーペダルを踏んで、低音を弾いた後、(その低音をペダルポイントとして)中高音を弾いてみてください。

と伺い、そのように弾いてみると、この低音がいつまでもきれいに残っているのです。

この低音域、そのままにしておくと最大で2分ほどの減衰時間があるそうです。これもコンディションの良いスタインウェイ D-274の特徴のひとつと仰っていました。

【Written by JUN】


タグ:日記
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